2008年10月28日火曜日

優秀なプログラマは空気を読んで空気を描く

まず、3つのポイントをおさらい。
  1. 変数のスコープは小さく抑える
  2. Do Not Repeat Yourself (DRYの原則) 同じコードは2度書くな
  3. 言語を極めよ

この1と2は、まったく違うようで、とても似た問題を扱っていることにお気づきでしょうか。それは「依存関係」を減らすか増やすか。


矛盾を抱えるプログラマ 変数のスコープを短くすると、コードで必要なデータを近くにまとめて依存関係を減らすことができます。要するに、コードを

inputから、output(+副作用)を作る

というメソッドと同じparadigm(パラダイム: 枠組み)にまとめたいわけです。この形にすると、コードをメソッドの形に書き直して、再利用することが簡単になります。グローバル変数を多く使っているコードは、依存関係を即座に判断するのが難しく、メソッドに纏め上げるのが大変なので忌み嫌われています。

一方、DRYの原則に従ってメソッドやクラスとして一箇所にまとめられたロジックは、使うユーザーや使われる場所が増えるため、依存関係を増やします。使う場所が増えないなら、メソッドやクラスにまとめる理由は、コードにわかりやすい名前(alias)をつけるくらいの意味しかありません。例えば、あちこちで頻繁に使われる文字列型(string)の最初の文字のindexが0ではなく1に変更されたら、大惨事になるでしょう。

プログラマって、依存関係を減らそうと努力しているかと思えば、一方で依存関係を増やそうと一生懸命になる、とても不思議な生き物です。入力から出力を作る枠組みでしか物事を考えられない、可哀想な生き物でもあります。

変数のスコープを最小に抑えると、リソースを解放するタイミングを明確にできる利点がありますが、GC(garbage collection) を搭載した現代的な言語実装では、不要になったらメモリを即解放というわけにはいかないので、スコープが多少ずれていても、さほど深刻ではありません。

プログラマは空気を読む 学生向けにプログラミングの講義をしていたときに学んだのは、ソースコードを追う能力の乏しい段階の学生さんは、抽象化されたコードの「意味」ではなく、「動作」を追ってしまう、ということ。

例えば、SQLなどは高度に抽象化されたコードの典型例でしょう。(これを宣言型という人も多いですが、抽象化の度合いの違いにすぎません)。以下のSQL文、

SELECT * FROM t1, t2 WHERE t1.id = t2.id

を見て、「2つのテーブルt1とt2でidが同じ値の行を結合する」、と読み取れたなら、おめでとう! もうあなたは立派に優秀なプログラマです。

例え内部で、lexer, parserからなるSQLコンパイラが動いていて、テーブルとクエリの静的型チェックをし、問い合わせスケジュールを組み立て、テーブルのデータ分布に基づいてスケジュールを最適化し、B+-treeとsequentialレコードを、ページロックを取得しながらserializabilityが保証されるようなプロトコルに従って検索して、必要ならライトウェイトロックで管理されたキャッシュにディスクページを保存しつつ、テーブルの結合にディスクを介したhash joinやexternal merge sortを実行していたとしても、そんなことは気にしてはいけません。SQLという入力から得られる結果の意味、つまり空気を読むことが大事です。

プログラミング言語は空気を描くもの どのプログラム言語を極めたらいいかって? 空気を読みやすくて、自分の空気を描けるもの。できなければ拡張するか、作る。これが言語を極めるということでしょう。作るのは割に合わない? 使いやすいプログラミング言語とその実装・ライブラリが出来上がるのを待つリスクが割に合うなら、のほほんと偶然の産物を待つのも一興でしょう。

(追記 10月29日)

考えることを減らせるように書く

長くなったのですが、同じラボにいた川中君がきれいにまとめてくれました。


メソッド(関数)によるコードの整理や、オブジェクト指向による実装の隠蔽、プログラミング言語のなりたちなど、プログラミングのすべてはこの動機から始まります。すばらしい。

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