2009年3月10日火曜日

イラストで知る研究の世界とその醍醐味

研究の世界の雰囲気や、その面白さがどこにあるかご存じな方はとても少ないことと思います。

例えば大学4年で卒業し就職してしまうと(法学部や経済学部に多い)全くといっていいほど研究の世界を知らないまま社会に出ることになります。日本では、報道などのメディアに就職する方も学部卒ということが多いため、テレビ・新聞などで研究の世界について深く書かれた記事を目にする機会はほとんどありません。

NHKのサイエンス・ゼロなどの番組で、研究者の様子を垣間見ることもできます。しかし、番組は研究の世界の一側面を見せているだけであり(取材時間に比べてカットが多く、内容も製作者の主観に左右される)、研究の世界で活躍していて評判の高い人は、実はほとんどメディアにでてこない事情もあります(「21歳からのハローワーク(研究者編)」を参照)。そのような研究者は、論文という形で一生懸命アウトプットを出しているのですが、論文は学部教育や大学院、博士での研究トレーニングを経ないと読みこなせない(研究の内容だけでなく、意義すら理解できない)ため、学者間にとっては非常に価値のあることでも、一般の人にとっては無用の長物に見えてしまうことも少なくないのです。

そのように謎に包まれた研究の世界の様子を、tsugo-tsugoさんが、イラストを通して伝えてくれています。研究の面白さや、研究の進め方の本質をしっかりとらえていて、一部に根強いファンがつく人気ぶりです。僕もtsugo-tsugo劇場と勝手に名付けて、連載を楽しんで読んでいます。以下のリンク先からどうぞ。
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こんな感じのかわいいイラストで、研究の世界に流れる感動や空気、驚きや醍醐味などをよく伝えてくれています。

ただし、一つだけ注意。tsugo-tsugoさん本人もおっしゃっているとおり、実際の研究は、かわいいばかりでなく結構殺伐としていることが多いです。博士課程では論文という形で成果が出せないと鬱になりがちです(学生相談所には博士課程の学生の相談が多いとか)。それに、日本では、ポスドク以外のアカデミアのポストにつける博士の割合は3割以下でもあります(H20年度の統計で、1万人の博士課程修了者のうち大学教員になった割合は23%、その他の研究者になったのは26%です)。研究の世界に飛び込むときは、実際の雰囲気に加え、社会の現状を知った上で入るのが望ましいと思います。
参考:
テレビなどのメディアで紹介されていて分野に興味を持ったから、というのも悪くはありませんが、実際の研究現場と想像していた雰囲気のギャップに苦しむことがあります。例えば、一時期、精神鑑定がはやって精神科医を志す人が増えたけれど、プロファイリングなどの言葉でテレビで華々しく紹介されているのとは違い、現実はかなり地道な調査が要求される分野だそうです。(そもそも疾患者数が少なく、統計的に有意な結果が見出しにくいため、健常者にまで外挿した質問肢調査から病気の傾向を見出すSchizotypyのような研究が必要だったり)

参考:
  • 教授からのメッセージ (研究者という道について厳しく書かれています。しかし、実際これくらいの心づもりで闘争心を持って研究に臨んでいかないと、とても大成できないので、実は愛情たっぷりのお話)

研究の世界を知るには、実際に研究室を覗いてみたり、中に入って話を聞いたり、扱っているテーマに関して勉強して手を動かしてみるのが一番だと思います。僕自身、そうやって志望する研究室を変えた経験がありますし、自分が勉強したい分野と、実際にその研究が肌にあうかどうかは意外に異なるので、例えさわりだけだとしても、経験してみることが大事です。

研究テーマをベースに選ぶとしても、例えば生物学なら、対象が生物ではあることは常に変わらないけれども、実際に用いる研究手法は、測定機械、実験設備の有無、さらには特定の分野に強い人がいるかどうか、などという様々な事情で変わってきます。人の入れ替わりも激しい世界なので、5年、10年以上と同じテーマの研究を続けているラボは珍しいくらいです。ただ、研究の軸が一本通っていれば、それを元にいろいろな理論、手法、解析に手を出していける強みもあります。僕の場合は「データベースシステムを作ること」が研究の軸にあります。今現在は、ちょうど生物情報という融合分野にいますが、生物でも、情報系でも、そのアプリケーションは違えど、研究の目的自体にあまり違いはありません。

これからの研究の世界に飛び込む人には、酸いも甘いも知った上で臨んでほしい、という思いをこめて。

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